江戸時代に発展した浮世絵は、木版画を中心とする絵画のジャンルで、独特の構図や鮮やかな色彩は19世紀ヨーロッパの印象派画家たちを魅了しました。
浮世絵を描く絵師の中でも、群を抜く存在として名を残したのが、葛飾北斎です。江戸時代後期に活躍した葛飾北斎は、斬新な構図と豊かな表現力で知られ、世界中の芸術家に影響を与えた存在として知られています。
数々の名作を残した葛飾北斎の魅力を存分に味わえるのが、東京都墨田区にある『すみだ北斎美術館』。
葛飾北斎が生まれ育ち、生涯のほとんどを過ごした所縁の地に建てられた『すみだ北斎美術館』では、4階にある『北斎を学ぶ部屋』で、すみだと北斎のつながりや北斎の画業を、代表作の実物大高精細レプリカやタッチパネルを活用して紹介しています。
外国からの旅行者にとっても、浮世絵と文化を深く理解できる貴重なスポットです。
北斎の生涯を一望できる『北斎を学ぶ部屋』
都営大江戸線両国駅から5分ほど歩いたところに『すみだ北斎美術館』はあります。
外観は、世界的建築家である妹島和世氏によるデザイン。周囲の下町風景が淡く映り込む外壁は、鏡面アルミパネルを使用しており、街に溶け込んでいます。

葛飾北斎『須佐之男命厄神退治之図』(推定復元図) 所蔵:すみだ北斎美術館/制作:TOPPAN株式会社
入ってすぐの壁には、北斎晩年の傑作ともいわれる『須佐之男命厄神退治之図』(推定復元図)の大絵馬が。
『須佐之男命厄神退治之図』は、牛嶋神社に奉納され、社殿に掲げられていました。関東大震災で焼失した幻の絵画であり、現存するモノクロ写真1枚を手がかりに、伝統技術と最新のデジタル技術を駆使して、見事に復元されました。

葛飾北斎『隅田川両岸景色図巻』
また、全長約7メートルの大作『隅田川両岸景色図巻』がデジタル画像で再現されている点も見どころの1つ。
『すみだ北斎美術館』では、タッチパネルを使って作品を拡大し、当時の景色と現在の写真を見比べることができます。

多言語対応のタッチパネルモニター
展示室内は英語、中国語(簡体字・繁体字)、韓国語にも対応。外国からの旅行者でも安心して見学できます。
画風の変遷 世界に届いた北斎
『北斎を学ぶ部屋』では、北斎の生涯と代表作を時代ごとに紹介。
浮世絵鑑賞が初めての人でも理解しやすい構成で、北斎の画業を6つの時代に分けて展示しています。

習作の時代から左回りに鑑賞するのが順路
浮世絵は光や湿度に弱く、原画を長期間展示することはできません。
そのため『すみだ北斎美術館』では、実物大かつ高精細レプリカを展示し、色彩や筆致を間近で堪能できるようにしています。

『習作の時代』の展示
北斎は生涯で30回以上も名前(画号)を変え、その時期ごとに作風も変化しました。
まず、役者絵で有名な浮世絵師、勝川春章に弟子入りしたところから絵師としてのキャリアをスタート。当時は自らを勝川春朗と名乗り、多彩な習作を残しました。
琳派に影響を受けた『宗理様式の時代』では、従来の琳派とは異なる独自の作風を生み出し、小説の挿絵を描いた『読本挿絵と肉筆画の時代』には、斬新な構図や奥行きのある空間表現に挑戦。
読本とは江戸時代後期に流行した小説などの冊子で、北斎は読本挿絵の芸術性を高めました。また、この頃は肉筆画を精力的に描いたことでも知られています。

葛飾北斎『略画早指南』
50歳を過ぎた北斎は、弟子たちのために絵の教科書である絵手本の制作に注力します。
浮世絵の技法を使って、人物や動物、風景やモノなど、あらゆる題材が生き生きと描かれました。その代表的な存在に『北斎漫画』があります。

葛飾北斎『北斎漫画』
『絵手本の時代』のスペースに設置されている『北斎絵手本大図鑑』のタッチパネルモニターには、楽しい仕掛けがたくさん。
北斎の絵手本をモチーフにしたパズルで遊んだり、絵手本にある絵図を指で描いてみたり、大人から子供まで楽しめます。

北斎がデザインした着物の文様を描いて体験できる
世界を席巻した北斎の浮世絵『冨嶽三十六景』
北斎の名を不動にしたのは、晩年に制作した『冨嶽三十六景』。

『冨嶽三十六景 凱風快晴』
『神奈川沖浪裏』や『凱風快晴』を含む、富士山を題材にした全46図は、大胆で自由な構図と表現、色彩の鮮やかさで多くの人々を魅了し、日本における風景画の地位を確立しました。
さらに1867年のパリ万国博覧会をきっかけに、日本の浮世絵はヨーロッパで大ブームに。当時のヨーロッパ芸術界にも大きな影響を与え、ジャポニズムと呼ばれる芸術潮流の火付け役となりました。
『錦絵の時代』では、これらの作品を高精細タッチパネルで鑑賞できます。絵を拡大してみると、波の細かい線や人々の表情など、肉眼では見逃しがちな緻密な描写に気付くはずです。

老いてなおさらなる境地を開いた『肉筆画の時代』。北斎は画号に『卍』を使うようになり、宗教画や和漢の故事を描いた肉筆画に傾倒していきます。
展示室の一角には、北斎のアトリエを再現したコーナーも。娘の阿栄とともに過ごし制作に打ち込む様子を垣間見ることができます。

『北斎アトリエ』再現模型
『北斎を学ぶ部屋』は高精細レプリカが中心ですが、特別展や企画展では実物の浮世絵や肉筆画を鑑賞できます。
開催内容は時期によって変わるため、訪問前に公式サイトでチェックしておくとよいでしょう。
美術館の周辺は、東京スカイツリーや江戸東京博物館などの観光名所に加え、和菓子や江戸切子といった職人の技に触れられるスポットも充実。日本文化を多角的に味わえます。
世界に誇る北斎の魅力を、ぜひ『すみだ北斎美術館』で体感してみてください。
施設情報
施設名 | すみだ北斎美術館 すみだほくさいびじゅつかん THE SUMIDA HOKUSAI MUSEUM |
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住所 | 東京都墨田区亀沢2-7-2
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アクセス |
両国駅東口から徒歩9分
両国駅A3出口から徒歩5分
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電話番号 | 03-6658-8936 |
開館時間 | 9:30~17:30(入館は閉館の30分前まで) |
休館日 | 月曜日(祝日・振替休日の場合は開館。翌平日が休館日) ※展示替え、年末年始ほか、不定休あり |
入館料 | ■『北斎を学ぶ部屋』観覧料 一般/400円(税込み) ※20名以上の団体利用、もしくは65歳以上の場合、300円(税込み) 大学・高校生/300円(税込み) ※20名以上の団体利用の場合、200円(税込み) 中学生以下/無料 身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方(付添者1名含む)/無料(障がい者手帳などを要提示) ■企画展観覧料 展覧会毎に異なるため、美術館公式ウェブサイトを要確認 |
ウェブサイト | https://hokusai-museum.jp/ |
パンフレット | 日本語・英語・中国語(簡体字・繁体字)・韓国語・フランス語に対応 ※美術館の概要パンフレットのみ |
音声ガイド | なし |
※施設情報は2025年8月時点のものです。