1966年。山崎種二氏が個人で集めた日本画のコレクションをもとに、『山種美術館』は誕生しました。
創設以来、質の高い日本画の収集と展示に力を注ぎ、近代・現代日本画を中心に、古画や浮世絵、油彩画など約1800点の作品を所蔵しています。
 
『山種美術館』の外観
多彩なコレクションは、年に5〜6回の展覧会で順次公開され、その時々のテーマに合わせて選ばれた作品と出会う楽しみが訪れる人を魅了しています。
2009年には現在の渋谷区広尾へと移転し、緑に囲まれた閑静な住宅街に位置。JR恵比寿駅からは歩いておよそ10分というアクセスのよさも、美術館の大きな魅力です。
大理石の階段に眠るアンモナイト
 
エントランスロビー
館内へ足を踏み入れると、出迎えてくれるのは落ち着いた雰囲気のエントランスロビー。
受付の隣には、ミュージアムカフェ『Cafe 椿』とインフォメーションコーナー。訪れる人の緊張を、そっと和らげる空間です。
 
『山種美術館』の壁面にあるアンモナイトの化石
展示室へは、受付奥の階段を降りて向かいます。大理石で覆われた壁面には、目を凝らすとアンモナイトの化石がひっそりと眠っているのを見つけられるでしょう。
静かな空間の中で、過去と現在がさりげなく交差する演出が印象的です。
 
階段を降りると現れる、展示室につながる自動扉
時代を超えて響き合う絵師たち 宗達から写楽、広重までを辿る企画展
『山種美術館』には常設展示がありません。そのかわり、年間を通じて複数の企画展が開催され、毎回異なる切り口から日本美術を体験できます。
 
『山種美術館』の展示室内
この日訪れたのは、『江戸の人気絵師 夢の競演〜宗達から写楽、広重まで』という展示。
琳派の祖である俵屋宗達から、浮世絵師の東洲斎写楽、そして歌川広重まで。時代や流派の異なる絵師たちの名作が集結し、まさに夢の共演といえる内容でした。
 
柴田是真『墨林筆哥「第16図」』
ひと際目を引いたのが、柴田是真による『墨林筆哥(ぼくりんひっか)』。
1877年から1888年頃にかけて制作されたこの作品には、琵琶を奏でる蛙と、その音に耳を傾ける仲間たちが、愛らしくも精緻な筆致で描かれています。
 
『漆絵』の独特の質感にも注目
江戸時代に生まれた柴田是真は、板や紙に彩漆(いろうるし)で絵を描く独自の『漆絵』という技法を考案しました。
柴田是真が編み出した漆絵の技法は、艶やかに輝く漆の表現が特徴で、江戸の蒔絵師としての卓越した技術の高さを感じさせます。
また、『墨林筆哥』は、ミュージアムグッズとしても人気があり、来館者の記憶に残る1枚です。
六大浮世絵師の代表作と、初心者にも優しい解説
 
今回の展示は、日本画専門の『山種美術館』としては珍しく、浮世絵を大々的に取り上げている点も特徴的です。
鈴木春信、鳥居清長、喜多川歌麿、東洲斎写楽、葛飾北斎、歌川広重ら、江戸時代を代表する六大絵師の作品が揃い踏み。
 
作品の横には解説が飾られている
特に注目したいのが、歌川広重の『東海道五拾三次 日本橋 朝之景』。
構図の巧みさや色彩の美しさはもちろん、初心者でも楽しめるように、作品には丁寧な解説が添えられています。日本美術への第一歩としても最適な展示です。
また、2025年10月4日から11月30日にかけて、『【特別展】日本画聖地巡礼2025 -速水御舟、東山魁夷から山口晃まで-』が開催予定。こちらの展示にも期待が高まります。
多言語対応の音声ガイドで深まる鑑賞体験
 
『Yamatane Art Guide』のカード
『山種美術館』では、作品の理解をより深めるための音声ガイド『Yamatane Art Guide』を提供しています。
受付で専用カードを受け取り、地下の展示室ではFree Wi-Fiに接続し、展示作品の下に貼られたQRコードを読み込むスタイルです。
 
作品の下に貼られているQRコード
音声ガイドは日本語、英語、韓国語、中国語の4カ国語に対応しており、スマートフォンがあれば誰でも簡単に利用できます。
また、英語版パンフレットの用意や、多言語で観光情報を紹介するコーナーも。海外からの来館者にも配慮が行き届いています。
 
『山種美術館』のミュージアムショップで出会う日本の伝統と遊び心
企画展示室に隣接するミュージアムショップには、『山種美術館』ならではのセンスが光るグッズが揃います
 
(左)『山種美術館 オリジナル 手ぬぐい 速水御舟 翠苔緑芝』 1,400円(税込み)、(右)『ピンバッジ』 各種600円(税込み)から
定番のポストカードやクリアファイルはもちろん、日本の伝統文化を感じさせる手ぬぐいや、遊び心あるピンバッジも人気アイテム。
多くのグッズの中でも評判が高いのが、速水御舟の重要文化財『名樹散椿』をモチーフにしたミニ屏風です。美術館の思い出を、そっと暮らしに持ち帰ることができるアイテムです。
 
『山種美術館ミニ屏風 速水御舟 名樹散椿』 5,500円(税込み)
『Cafe 椿』で味わうアートな和菓子体験
1階の『Cafe 椿』では、展覧会に合わせて創作されたオリジナル和菓子を楽しむことができます。
いずれも、青山の老舗菓匠『菊家』による特別なオーダーメイド。作品に描かれた花や果物、風景などをモチーフに、繊細な味と形で表現しています。
 
『秋げしき』
俵屋宗達の『槙楓図』をイメージした『秋げしき』では、緑のきんとんが槙の葉を、錦玉羹が楓の葉を再現。
また、歌川広重の『武陽金沢八勝夜景(雪月花之内 月)』をモチーフにした『月夜の海』では、月光に照らされた夜の海を錦玉羹で美しく描いています。
 
『月夜の海』
抹茶とのセットはもちろん、煎茶やコーヒーとも好相性。アートと甘味の余韻を静かに楽しむ時間を求めて、何度も足を運ぶリピーターも多いそうです。
豊かなコレクションと、切り口の鋭い企画展。『山種美術館』は、単に作品を観る場所ではなく、作品と向き合う時間を提供してくれる美術館です。
 
『お抹茶セット(和菓子:『夏の日』)』 1,500円(税込み)
音声ガイドや多言語サービス、ミュージアムショップ、そして和菓子で季節を味わえるカフェメニュー。鑑賞体験をより豊かにするための工夫が、館内のあちこちに散りばめられています。
静けさの中で1枚の絵と向き合い、作品に込められた時間や感情を自分の内側に落とし込む。そんな感覚を味わえる場所は、東京の中でも決して多くはありません。
 
日本のアートに関する情報ペーパー
エントランスホールには、美術館周辺の観光スポットを多言語で紹介するコーナーがあり、英語・簡体字中国語・繁体字中国語・韓国語のガイドマップもあります。
日本のアートに関する情報ペーパーなども取り揃えているため、来館後の観光にも最適。
豊かな時間を求める人のために、『山種美術館』は今日も扉を開いています。
施設情報
| 施設名 | 山種美術館 やまたねびじゅつかん Yamatane Museum | 
|---|---|
| 住所 | 東京都渋谷区広尾3-12-36 | 
| アクセス | 恵比寿駅(EBS)西口から徒歩10分 
 恵比寿駅(EBS)1番出口から徒歩10分 
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| 電話番号 | 050-5541-8600(ハローダイヤル) | 
| 開館時間 | 10:00~17:00(入館は閉館の30分前まで) | 
| 休館日 | 毎週月曜日(祝日の場合は火曜日が休館日) | 
| 入館料 | 一般/1400円 ※障がい者手帳、被爆者健康手帳をお持ちの方(付添者1名含む)/1200円(障がい者手帳を要提示) 大学生・高校生/1100円 ※障がい者手帳、被爆者健康手帳をお持ちの方(付添者1名含む)/1000円(障がい者手帳を要提示) 中学生以下無料(付添者の同伴が必要) /無料 | 
| ウェブサイト | https://www.yamatane-museum.jp/ | 
| パンフレット | 日本語・英語に対応 | 
| 音声ガイド | 日本語・英語・中国語・韓国語に対応 | 
※施設情報は2025年9月時点のものです。
 
		










