埼玉の河鍋暁斎記念美術館で風刺とユーモアあふれる浮世絵の世界を楽しむ!

江戸時代末期から明治期に活躍した河鍋暁斎(かわなべ きょうさい)。浮世絵や西洋画も取り入れ、「描けぬもののない絵師」と称賛された天才絵師です。

生前の河鍋暁斎と交流した文化人の影響で、欧米でもその幅広い画風と技術が高く評価され続ける一方、戦後の日本では美術史から名前が消えかけてしまう事態に。

失われつつあった河鍋暁斎作品を保存・公開し、価値を広く伝えるために河鍋暁斎の曾孫が創設したのがこの『河鍋暁斎記念美術館』です。

蕨の住宅街に熱心なファンが足を運ぶ

『河鍋暁斎記念美術館』の外観

『河鍋暁斎記念美術館』があるのは、埼玉県蕨市の閑静な住宅街。

アクセスが決してよいとはいえない立地ですが、河鍋暁斎の作品を常設展示する唯一の美術館であることから、日本だけでなく海外からも熱心なファンが訪れます。

展示点数は約40点。コンパクトな空間ながら、妖怪画から戯画、狩野派の伝統を受け継いだ作品まで、河鍋暁斎の多様な作品が、その時々のテーマごとに展示されています。

来館者は、長く滞在しじっくり鑑賞する人が多く、河鍋暁斎作品への深い関心がうかがえます。

日本美術史において異彩を放つ絵師・暁斎の多様な作品の数々

『河鍋暁斎記念美術館』の第一展示室内観

『河鍋暁斎記念美術館』の第一展示室内観

河鍋暁斎は、浮世絵師・歌川国芳に入門した後、日本画の正統を受け継ぐ狩野派でも修業を積みました。

狩野派は、室町時代中期に成立した日本を代表する画派の1つ。河鍋暁斎はその技法をわずか19歳で修め、早くから画才を発揮していたことでも知られています。

その後も土佐派、円山四条派、琳派、西洋画など多様な流派を学び、表現の幅を広げていきました。

神仏画から風俗画、風刺画、そして妖怪や戯画まで、主題は実に多彩。その作風は、卓越した技量と豊かな想像力を感じさせるものでした。

天才絵師である河鍋暁斎の作品の中から、特に『河鍋暁斎記念美術館』が所蔵する浮世絵版画に注目してご紹介していきます。

河鍋暁斎『東海道 高縄 牛ご屋』

『東海道 高縄牛ご屋』

まずご紹介するのは、幕末の1863年、徳川幕府第14代将軍・徳川家茂の『上洛』の道中を描いた連作の1枚です。

画面の手前には、塀越しに行列をのぞき込む子供たちの姿が描かれています。牛の背にまたがりながら、好奇心たっぷりに目を向ける様子は、整然とした将軍一行の荘厳さと対照的で、どこか微笑ましさも漂います。

一見穏やかな情景の中に、幕末の世相や庶民の視線を巧みに織り交ぜた、河鍋暁斎ならではの風刺とユーモアが感じられる作品です。

河鍋暁斎『応需暁斎楽画 第九号 地獄太夫かいこつの遊戯をゆめに見る』

『応需暁斎楽画 第九号 地獄太夫かいこつの遊戯をゆめに見る図』

室町時代に実在したとされる伝説的な遊女・地獄太夫は、地獄の名を冠するほど、仏教思想に通じた教養深い存在として知られます。

彼女の存在は、華やかさと諦観、快楽と無常といった、相反する価値が共存する象徴として、古くから多くの絵師たちに描かれてきました。

河鍋暁斎の『応需暁斎楽画 第九号 地獄太夫かいこつの遊戯をゆめに見る図』では、地獄太夫の夢の中に現れた骸骨たちが、思い思いに遊び戯れる姿が描かれています。

生と死、美と醜といった対極的なモチーフを自在に組み合わせ、戯画として昇華させる手腕は、まさに河鍋暁斎の真骨頂。豪放さと繊細さが同居する構図からは、河鍋暁斎独自の美意識が感じられます。

河鍋暁斎『暁斎楽画第三号化々学校』

『暁斎楽画 第三号 化々学校』

『暁斎楽画 第三号 化々学校』は、河鍋暁斎らしい風刺精神が光る作品です。

河童や鬼の子供たちが机を並べ、真剣に授業を受けるという、ユーモラスな構図。鬼の子は絵図、河童の子はローマ字という当時の最新の学習方法で、それぞれの必須単語を教わっており、細部にまで遊び心が詰まっています。

門前払いされる妖怪の子供たちの姿も描かれており、まるで現実社会を映す風刺劇のようです。

明治維新によって社会の価値観が大きく転換する中、教育制度もまた大きな変化を迎えました。この作品は、1872年に新政府が学制を施行して以降の混乱を、独自の視点と筆致で描き出した風刺画といえるでしょう。

巧みな描写と鋭い観察眼を併せ持ち、海外でも高く評価されている河鍋暁斎。卓越した技巧に加え、体制や社会をユーモアで切り取るその視点が、時代や国境を超えて見る者の心をとらえるのです。

河鍋暁斎『風流蛙大合戦之図』

『風流蛙大合戦之図』

『風流蛙大合戦之図』は、一見するとただのカエルたちによる大合戦ですが、河鍋暁斎の筆による風刺画と知れば、その意味の深さに思わずうなるはず。

河鍋暁斎は、たびたび画題としてカエルを描いてきました。本作でも、擬人化されたカエルが軍勢となって激しく戦う様子が、緻密かつ躍動感あふれる筆致で描かれています。

しかし、よく見ると、幔幕(まんまく)や大砲の車輪に描かれているのは紀州徳川家と毛利家の家紋。これは、1864年に勃発した第一次長州征伐を風刺した作品と考えられています。

権力抗争をユーモアとアイロニーに変換し、おもしろさの中に鋭い批評性を織り込むのは、河鍋暁斎ならでは。自身の好きなものを媒介にして時代を斬る、その手腕が、『風流蛙大合戦之図』にも存分に発揮されています。

河鍋暁斎の魅力に惹かれたファンは世界中に!

河鍋暁斎記念美術館のミュージアムショップ

ミュージアムショップでは暁斎作品をモチーフにしたお土産も人気

2か月に一度のペースで全作品の展示が変わるため、何度訪れても楽しむことができる『河鍋暁斎記念美術館』。

浮世絵版画だけでなく、肉筆の掛軸や貴重な下絵なども展示されており、河鍋暁斎の世界にどっぷりと浸ることができます。

河鍋暁斎の名前を知っている人も、知らなかった人も、ぜひ一度足を運んでみてください。彼が描く作品のエネルギーに、魅了されること間違いなしです。

施設情報

施設名 河鍋暁斎記念美術館
かわなべきょうさいきねんびじゅつかん
KAWANABE KYOSAI MEMORIAL MUSEUM
住所 埼玉県蕨市南町4-36-4
アクセス (バス停)河鍋暁斎記念美術館からすぐ
  • ぷらっとわらび(南ルート)

西川口駅西口から徒歩20分
  • JR京浜東北線(JK40)
電話番号 048-441-9780
開館時間 10:00~16:00(入館は16:00まで)
休館日 火・木曜日、毎月26日~末日
※年末年始、不定休あり
入館料 一般/600円(税込み)
満65歳以上/500円(税込み)(証明書を要提示)
高校生・大学生/500円(税込み)(学生証を要提示)
小学生・中学生/300円(税込み)
小学生未満/無料
身体障害者手帳をお持ちの方/入館料100円引き(障がい者手帳などを要提示)
ウェブサイト http://kyosai-museum.jp/
パンフレット 日本語・英語に対応
※美術館の概要パンフレットのみ
音声ガイド なし

※施設情報は2025年8月時点のものです。