日本を訪れたら、四季折々の自然や伝統文化はもちろん、ぜひ体験してほしいのが酒場で過ごす時間です。
酒場での「乾杯!」にはじまり、料理に合わせて楽しむ1杯、気軽にコンビニで手に入る缶チューハイまで、その1杯が、誰かと気持ちを交わすためのきっかけになります。
また、日本のアルコール類は地域性も豊か。焼酎、日本酒、クラフトビールなど、旅先ごとに異なる味と出会えるのも魅力です。
このガイドでは、旅行中に試してほしい日本ならではのアルコールを7種類ご紹介します。

※写真はイメージ
チューハイ&サワー:日本らしいアルコールを楽しむ
日本の酒場やバーでよく目にする『チューハイ』と『サワー』。実はレシピ上ではほとんど違いがありません。
どちらも焼酎やウォッカをベースに、炭酸や果汁、お茶などで割るというレシピは共通しています。
呼び方は店や地域によって異なるものの、ほぼ同じ意味で使われているのが実情です。つまり、チューハイとサワーは日本独特の『割りもの文化』を象徴する言葉といえます。

※レモンサワー
代表的なものでいうと、まずはレモンサワーやグレープフルーツサワー。
柑橘類の果汁を加え、炭酸でシュワッとさわやかに仕上げてあります。酸味と炭酸のバランスが絶妙で、暑い夏にもぴったりです。
次は、ウーロン茶や緑茶を割るウーロンハイに緑茶ハイ。こちらは炭酸を使わず、茶葉の香りと焼酎のまろやかさが調和する落ち着いた味わいです。
チューハイとサワーはどちらも、材料と割り方次第で味わいが変わり、自由にカスタマイズできるのが魅力。
日本の『割りもの文化』は、そんな遊び心と気軽さを兼ね備えています。
いずれもコンビニでも缶に入った状態で売られているため、日本のアルコール文化の入り口として気軽に楽しんでみてください。

※ウーロンハイ
ハイボール:ウイスキー×炭酸の日本スタイル
ハイボールとは、ウイスキーを炭酸水で割ったシンプルなカクテル。
海外でも広く知られている飲み方ですが、日本では独自の進化を遂げ、酒場でも家庭でも親しまれる存在です。

※ハイボール
日本でハイボールがブームになった背景には、国産ウイスキーのクオリティの高さがあります。
例えば『角ハイ』の愛称で知られる『サントリー角瓶』を使ったハイボールは、香り高くすっきりとした味わいで、揚げ物や焼き鳥などの食事と相性抜群。食中酒としても優秀です。
また、日本のバーや専門店では、『山崎』や『白州』といったシングルモルトを炭酸で割る贅沢なハイボールも楽しめます。

※『山崎』のウイスキー
ウイスキーの繊細な香りが炭酸でふわっと広がり、アルコールの強さを和らげながら、しっかりと味わうことができます。
ポイントは、炭酸のキレとウイスキーの香りのバランス。
氷をたっぷり入れたグラスにウイスキーを注ぎ、最後に炭酸を静かに加えるのが、日本流のハイボールの作り方です。
華やかさよりも、日常の中にしっくりと馴染む、いわば引き算の美学が光るのが、日本のハイボール。
肩肘張らずに楽しむことができ、作り方やウイスキーの種類によって味わいが変わるハイボールは、知れば知るほどその魅力に引き込まれるアルコールの1つです。
クラフトビール:和素材と個性が光る地ビール
クラフトビールの魅力は、その土地ごとの個性と作り手のこだわりが詰まっているところ。
全国に小さなブルワリーが点在し、それぞれにユニークなビールを生み出しています。
特に注目したいのは、日本ならではの素材を使ったクラフトビールです。

※日本のクラフトビール
さわやかな香りが口いっぱいに広がる柚子の皮を加えたホワイトエールや、ほのかな渋みやスパイシーさを感じる抹茶や山椒(さんしょう)を使ったクラフトビールなど、ブルワリーごとの個性があります。
日本のクラフトビールは、地ビールの枠を超え、いまやローカルカルチャーの表現そのものといっても過言ではないほど。
料理との組み合わせによっても風味が変わり、旅先でその土地のクラフトビールを味わえば、食への好奇心がぐっと刺激されます。
定番のラガーだけでなく、IPA、ペールエール、セゾンなど、多様なスタイルからお気に入りを見つけてみてください。きっと、日本ならではの1杯に出会えるはずです。
梅酒:甘くて飲みやすい、日本のフルーツリキュール
日本の家庭でも長く親しまれてきた梅酒は、青梅と氷砂糖、そしてホワイトリカーや焼酎などのアルコールで漬け込んで作る果実酒。
とろりとした甘さとほどよい酸味が特徴で、酒が苦手な人でも飲みやすく感じられます。
その味わいは、まるでデザートのよう。口に含むと梅の香りがふんわりと広がり、やさしい甘さが余韻を残します。

※梅酒
冷蔵庫で冷やしてストレートで飲むのもいいですが、一番人気の飲み方はロックスタイル。
氷を入れたグラスに注ぐことで、甘さがほどよく引き締まり、梅の風味がより引き立ちます。
食前酒にも、食後のリラックスタイムにもぴったりの梅酒。日本ならではの季節感と、果実の恵みが詰め込まれています。
ホッピー:下町で愛されるビール風ドリンク
東京の浅草や上野といった下町エリアを中心に、愛されているローカルドリンクが『ホッピー』。
焼酎と、麦を原料にした炭酸入りの飲料『ホッピー』を自分で割って楽しむアルコールです。

※ホッピー
味わいはビールに似ていますが、アルコール度数は控えめ。低カロリーかつ低糖質で、健康志向の人やダイエット中の人にこそおすすめしたい1杯です。
焼酎の量を自由に調整できるため、その日の気分や好みに合わせて飲みやすさをコントロールできるのも『ホッピー』の魅力といえます。
ホッピーには『白』と『黒』の2種類があり、これは色もですが味わいの違いを表す呼び方。『白ホッピー』は軽やかでさっぱりとした後味が特徴で、どんな食事にもよく合います。
対して『黒ホッピー』は、麦芽のコクとほのかな甘みが楽しめる、より香ばしい味わいです。
飲み方にもルールがあります。
まず、『ホッピー』が入った瓶と、グラスもしくはジョッキに入った焼酎が、別々に提供されるのが基本スタイル。

※ホッピー
グラスに入った焼酎は『中』と呼び、そこに『ホッピー』を注ぎ、自分好みの濃さで仕上げます。1本のホッピーで、2〜3杯分は楽しめるため、『中』だけを追加で注文するのが一般的。
注文時は、「『中』おかわり」、もしも『ホッピー』のみを頼む場合は「『外』おかわり」と頼むのが通例です。
昭和の空気が残る酒場で、グラスを傾けるそのひと時は、まるで東京の下町に住む人々の暮らしの一部に触れるような感覚。
観光ガイドには載っていない東京を体験したいなら、『ホッピー』はきっと、最良の案内役になってくれます。
日本酒:伝統と四季を感じる米の酒
日本の食文化を語るうえで欠かせない存在、それが日本酒です。
米と水、そして麹の力から生まれる伝統的な醸造酒は、素材の持ち味を大切にする和食と驚くほどよく合います。
ひと口飲めば、米の甘みやうまみ、そしてその土地の空気までも感じられるようです。

※日本酒
日本酒の名産地といえば、新潟、山形、秋田、福島など、東北地方がよく知られています。
冬の厳しい寒さと豊かな雪解け水、良質な米がそろう東北では、昔から酒づくりが盛んに行われてきました。
それぞれの土地に個性があり、旅をするように味を楽しめるのも魅力の1つです。
日本酒にはいくつかの種類があり、米をどこまで削るかを意味する精米歩合と、製法によって風味が大きく変わります。
大吟醸酒:米を50%以下まで磨き、低温でじっくり発酵させた華やかな香りと繊細な味わいが特徴。香りを楽しみたい方におすすめです。
吟醸酒:精米歩合60%以下。やや軽やかで、すっきりと飲みやすいバランスの取れたタイプ。
純米酒:米と水だけで作られる、コクがあり食事に寄り添う味わい。米のうまみをしっかり感じられます。
本醸造酒:米、水、麹に加えて少量の醸造アルコールを加えることで、すっきりとしたのどごしと軽快な飲み口が生まれます。
冷酒として楽しむのはもちろん、季節によってはぬる燗や熱燗で味の表情を変えるのも、日本酒ならではの楽しみ方。
その土地の食材と合わせて味わえば、日本の四季と風土を、より深く感じられるはずです。
焼酎:九州発、本格派の蒸留酒
日本の南に位置する九州地方を中心に広く親しまれているのが焼酎です。
日本酒と違い、焼酎はアルコールを蒸留して作られる、蒸留酒。すっきりとした飲み口で食中酒としても優秀なだけでなく、飲み方のバリエーションも豊富です。
焼酎の一番の特徴は、原料によって風味が大きく異なること。代表的なのが、以下の3種類です。
芋焼酎:サツマイモを使った焼酎で、香ばしく、コクのある風味が特徴。インパクトのある香りはクセになります。主に鹿児島や宮崎が名産地です。
麦焼酎:大分をはじめとする九州北部で多く作られ、軽やかで香ばしい香りが楽しめます。焼き魚や揚げ物とも相性抜群。
米焼酎:熊本で作られることが多く、まろやかでやさしい味わい。和食全般に合わせやすい万能型です。
地域によっては、しそ焼酎や黒糖焼酎といった種類も。
土地に根ざした個性派の焼酎との出会いも旅の醍醐味です。どの地域にどんな焼酎があるのか、そんな偶然の発見も、焼酎を巡る楽しさといえるでしょう。

※焼酎
飲み方にはさまざまなスタイルがあり、水割り、ロック、お湯割り、炭酸割り(ソーダ割り)など、好みに応じて楽しめます。
芋焼酎はお湯割りにすると香りが強くなり、麦焼酎はロックで飲むとキレが引き立ちます。
夏は炭酸割りでさわやかに、冬はぬくもりのあるお湯割りで。1つの酒で季節を味わえるのも、焼酎の奥深さです。
また、焼酎はアルコール度数がやや高めながら、糖質ゼロ、プリン体ゼロの銘柄も多く、ヘルシー志向の人にも人気があります。
日本酒と並ぶ、もう1つの日本の酒文化を代表する焼酎は、特に九州を旅するなら、地元の焼酎と郷土料理のペアリングは見逃せません。

※焼酎のロック
日本の定番のお酒を楽しめる場所は?
日本のお酒文化を体験するなら、ぜひ訪れてほしいのが居酒屋と呼ばれる酒場や、立ち飲みスタイルの飲食店です。
地元の人々も観光客も肩を並べ、気軽に1杯を楽しむ居酒屋や立ち飲み屋には、日本ならではの酒と食の魅力がぎゅっと詰まっています。

※アルコールを豊富に取りそろえる新宿の『やきとり〇金』
居酒屋で出会える定番のアルコールは、チューハイやハイボールをはじめ、地域限定のクラフトビールやこだわりの梅酒など、実に多彩です。
焼き鳥や刺身などのつまみとともに楽しめば、その土地ならではの味わいが一層深まります。

※豊富な料理とともにアルコールを楽しめる新橋の『豚屋 鳥山』
また、全国各地の日本酒や焼酎を豊富に取りそろえている店も多く、地元の酒を飲み比べるのも楽しみのひとつです。
一方で、立ち飲み屋はよりカジュアルな雰囲気。狭いカウンター越しに店主との会話が弾み、知らない客同士が自然と打ち解けるのも魅力です。ホッピーやチューハイといった庶民派ドリンクを片手に、日常の中の“ちょっとした非日常”を味わうことができます。

※立ち飲みスタイルで豊富な日本酒を飲み比べ『立ち吞み 庫裏』
日本の酒には、土地の気候や文化、そして人の手仕事がしっかりと息づいています。旅先で出会う1杯は、その土地をもっと深く知るきっかけになるはず。
味わうだけでなく、背景にあるストーリーにも触れながら、日本の酒文化を楽しんでみてください。