中トロは、日本の寿司文化において最も愛される食材の1つで、マグロの赤身と大トロの中間に位置する部位です。両者のおいしさを兼ね備えた絶妙なバランスが魅力といえるでしょう。
近年、訪日外国人の間でも寿司人気が高まる中、中トロの深い味わいと食感に魅了される方が増えています。本記事では、中トロの基本的な特徴から、赤身や大トロとの違い、おいしい食べ方まで、寿司愛好家なら知っておきたい中トロのすべてを詳しく解説します。
中トロについて深掘りする前に、マグロ全体の種類や価格の選び方について、さらに詳しく知りたい人はこちらもどうぞ。
中トロとは何か|基本的な特徴と定義
中トロ(Chutoro)は、マグロの赤身(Akami)と大トロ(Otoro)の中間に位置する部位で、脂肪含有量が約15〜20%の部分を指します。マグロの体の構造上、筋肉組織と脂肪組織が程よく混在している箇所から取れるため、赤身のうまみと脂の甘みを同時に楽しめる特別な部位となっています。
中トロの最大の特徴は、赤身の鉄分豊かな風味と脂の甘みがひと口で味わえることです。マグロの筋肉繊維の中に適度な脂肪が入り込んでいるため、口の中でとろけるような食感と、後味に残る深いうまみが楽しめます。

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中トロの脂肪含有量と品質基準
中トロに含まれる脂肪は赤身よりも多く、大トロよりも少ないのが普通です。このバランスが寿司職人にとって重要な品質判断基準となっています。
脂肪含有量が低すぎれば赤身に近い味わいとなり、多くなりすぎれば大トロに分類されることが一般的です。また、部位によって筋繊維のやわらかさが異なるため、同じ中トロでも微妙な味の違いが生まれます。
中トロの部位別特徴
マグロの背中側から取れる中トロは『セナカ(Senaka)』と呼ばれ、背中の部位から取れるトロはすべて中トロとして分類されます。
腹側の中トロと比較すると、やや筋肉質で歯ごたえがあり、赤身に近い風味が強く感じられるのが特徴です。一方、腹側の中トロは脂ののりがよく、よりとろけるような食感を楽しめます。

『まぐろや黒銀』で寿司職人がマグロを素早くカットする様子
赤身・大トロとの違いと比較
中トロを理解するためには、マグロの三大部位である『赤身』『中トロ』『大トロ』の特徴を比較することが重要です。それぞれの部位には独特の味わいと食感があり、寿司愛好家にとって異なる魅力を提供しています。
脂肪含有量、食感、風味の違いを詳しく見ていきましょう。
赤身との違い
赤身は脂肪含有量が非常に少なく、肉感の強い味わいと歯ごたえのある食感が特徴です。中トロと比較すると、より濃厚なうまみと力強い風味があり、噛むほどに深い味わいが広がります。赤身は醤油との相性がよく、わさびの辛味とも絶妙にマッチするため、寿司の基本として多くの人に愛されています。
一方、中トロは赤身のうまみに加えて脂の甘みがプラスされているため、より複雑で奥行きのある味わいを楽しめます。食感も赤身よりもやわらかく、口の中でとろける感覚を味わえるのが大きな違いです。

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大トロとの違い
大トロは中トロ以上に脂肪が多く含まれている部位で、マグロの最も贅沢な部分とされています。口に入れた瞬間にとろけるような食感と、濃厚な脂の甘みが特徴的です。中トロと比較すると、より脂っぽく、とろける感覚が強く感じられます。
中トロは大トロほど脂っぽくなく、赤身の風味も残っているため、バランスの取れた味わいが楽しめるのが最大の魅力です。大トロが苦手な人でも、中トロならおいしく食べられるケースが多く、幅広い層に愛される理由となっています。

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価格帯と希少性の比較
一般的に、赤身が最も手頃で、中トロ、大トロの順に価格が高くなります。希少性も同様の順序となっており、特に天然本マグロの大トロは非常に高価で入手困難な場合があります。
中トロは価格と味のバランスがよいため、寿司店でも人気の高いネタとなっています。
部位 | 脂肪含有量 | 価格帯 | 特徴 |
---|---|---|---|
赤身 | 非常に低い | 低 | 鉄分豊富、歯ごたえあり |
中トロ | バランスがいい | 中 | バランスのよい味わい |
大トロ | 非常に多い | 高 | とろける食感、濃厚 |
中トロの希少部位と特別な種類
中トロには一般的な部位以外にも、非常に希少で特別な味わいを持つ部位が存在します。
これらの希少部位は限られた量しか取れないため、高級寿司店でも滅多にお目にかかれない貴重な食材となっています。それぞれの特徴と魅力について詳しく解説します。

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背トロ(Setoro)の特徴
背トロは背ビレを動かす筋肉と皮下脂肪の間にある部位で、1匹のクロマグロから数百グラムしか取れない超希少部位です。赤身の酸味や香りと脂の甘みが共存するのが最大の特徴で、中トロの中でも特に複雑で奥深い味わいを楽しめます。
背トロの魅力は、筋肉の動きが活発な部位であるため、うまみ成分が凝縮されていることです。また、皮下脂肪との絶妙なバランスにより、一般的な中トロとは異なる独特の食感と風味を味わえます。
高級寿司店でも入荷が限られるため、出会えた際はぜひ味わっていただきたい逸品です。
部位による味わいの違い
中トロには取れる部位によって微妙な味の違いがあります。背中側の中トロは筋肉質で歯ごたえがあり、腹側の中トロは脂ののりがよくとろけるような食感を楽しめます。また、頭に近い部位の中トロはうまみが強く、尻尾に近い部位は淡白な味わいが特徴的です。
これらの違いを理解することで、寿司を食べる際により深い味わいを楽しめるようになります。経験豊富な寿司職人は、客の好みに合わせて異なる部位の中トロを提供することがあるため、気軽に相談してみることをおすすめします。
中トロのおいしい食べ方と寿司での楽しみ方
中トロを最もおいしく味わうためには、適切な温度管理と食べ方のコツを知ることが重要です。
寿司として楽しむ場合、シャリ(酢飯)とネタの温度バランスが味わいを大きく左右するため、理想的な状態で提供される寿司店を選ぶことが大切になります。
理想的な温度と食べるタイミング
寿司として中トロを楽しむ場合、シャリの温度はやや温かい程度で、ネタの温度は常温くらいが理想的とされています。この温度差により、中トロの脂が程よく溶け、最高の食感と風味を楽しめます。寿司職人が握った直後に食べることで、この理想的な温度バランスを味わえます。
中トロを食べる際は、ひと口で食べることが重要です。噛み切ってしまうと、中トロの脂が口の中に残らず、本来のおいしさを十分に味わえません。また、醤油は少量にとどめ、中トロ本来の味わいを大切にすることもポイントです。

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醤油とわさびの使い方
中トロには適度な脂があるため、醤油の使い方にコツがあります。ネタ側に少量の醤油をつけるのが基本で、シャリに醤油をつけるのは避けるべきです。わさびについては、既に寿司職人が適量を握りに入れている場合が多いため、追加は控えめにするのが賢明です。
中トロの脂の甘みと醤油の塩味、わさびの辛味が絶妙に調和することで、奥深い味わいを楽しめるのが寿司の醍醐味です。自分好みの味付けを見つけるために、最初は薄味から試していくことをおすすめします。

『築地 寿司岩』の寿司職人が寿司を握る
ほかの食材との組み合わせ
中トロがおいしいことはいうまでもありませんが、単体で食べる以外に、ほかの食材と組み合わせる料理もおすすめです。例えば、トロたく巻き(中トロとたくあんの巻き寿司)は、中トロの脂っぽさをたくあんの酸味が中和し、絶妙なバランスを生み出します。
また、中トロの前後に食べるネタの順番も重要です。淡白な白身魚の後に中トロを食べると、より中トロのうまみを感じやすくなります。逆に、中トロの後は口の中をリセットするために、大根おろしやガリ(しょうがの酢漬け)を食べることが推奨されます。

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中トロの産地と旬の時期
中トロのおいしさは、マグロが獲れる産地と時期によって大きく左右されます。
日本各地には優秀なマグロ漁場があり、それぞれ異なる特徴を持つマグロが水揚げされています。産地ごとの特色と旬の時期を理解することで、よりおいしい中トロを味わえるようになります。
主要な産地とその特徴
日本の主要なマグロ産地には、北海道、青森、和歌山、宮崎などがあり、それぞれ独特の味わいを持つマグロが獲れます。北海道の噴火湾(うちうらわん)では、冷たい海水で育ったマグロが水揚げされ、身が締まって脂ののりがいいのが特徴です。青森の大間や三厩(みんまや)では、津軽海峡の荒波で鍛えられた力強い味わいのマグロが獲れます。
和歌山県では、黒潮の恩恵を受けた温暖な海域で育ったマグロが水揚げされ、脂の質がよく上品な味わいが楽しめます。宮崎の油津では、南国の温かい海で育ったマグロが獲れ、比較的脂ののりがいいマグロが特徴的です。
有名漁場の特色
大間(青森)はマグロの一大産地とも呼ばれ、マグロの最高峰とされる『大間のマグロ』はあまりにも有名です。津軽海峡の激流で鍛えられたマグロは、身が締まりうまみが凝縮されています。土肥(静岡)では相模湾で獲れるマグロが有名で、都心に近いことから新鮮な状態で市場に出回ります。

※写真はイメージ
佐渡(新潟)や壱岐(長崎)などの離島近海で獲れるマグロは、回遊ルートの関係で脂ののりがよく、特に中トロの品質が高いことで知られています。これらの漁場では、マグロが豊富な餌を食べながら回遊するため、自然と脂肪が蓄積され、おいしい中トロが取れる環境が整っています。
産地 | 特徴 |
---|---|
大間(青森) | 身が締まりうまみ凝縮 |
噴火湾(北海道) | 脂ののりがいい |
油津(宮崎) | 脂質が良質 |
壱岐(長崎) | 中トロの品質が高い |
旬の時期と季節による味の変化
マグロの旬は一般的に秋から冬にかけてとされており、この時期に獲れる中トロは脂ののりが最高潮に達します。特に11月~2月頃は、マグロが越冬のために脂肪を蓄える時期であり、中トロの品質が最も高くなります。
春から夏にかけては産卵期に入るため、マグロの脂肪量が減少し、中トロよりも赤身の方がおいしくなる傾向があります。ただし、養殖技術の向上により、現在では年間を通して安定した品質の中トロを楽しめるようになっています。季節ごとの味の変化を楽しむことも、寿司文化の奥深い魅力の1つです。

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まとめ
中トロは、マグロの赤身と大トロの中間に位置する特別な部位で、脂肪と赤身の絶妙なバランスが生み出す複雑な味わいが最大の魅力です。赤身の力強いうまみと脂の甘みを同時に楽しめるため、多くの寿司愛好家に愛され続けています。
背トロなどの希少部位も含め、中トロにはさまざまな種類があり、それぞれ異なる味わいと食感を提供しています。適切な調理が行われた中トロを適した食べ方で食べることで、中トロ本来のおいしさを最大限に引き出すことができ、寿司の味わいをより豊かなものにしてくれるでしょう。