四季折々の風情や、日本ならではの美意識がぎゅっと詰まった和菓子は、味わうだけでなく、目でも楽しませてくれる存在。
東京には、老舗から若い世代にも親しまれる現代的な和菓子店まで、数多く点在しています。
おやつに、手土産に、自分へのご褒美に。さまざまなシーンに寄り添ってくれる和菓子の魅力をご紹介します。
上生菓子
和菓子と聞いて、まず思い浮かぶのは美しく彩られた、繊細な上生菓子。もともと茶席などで客人をもてなすために生まれた、特別な和菓子です。
ひと口サイズの芸術品のような佇まいは、手に取るだけで季節を感じさせてくれます。
その中でも代表的な上生菓子の種類が、練り切り。
練り切りとはあんこのことであり、白餡につなぎとしてヤマイモや求肥(ぎゅうひ)などを加えて作ります。

『まほろ堂 蒼月』の和菓子各種
つなぎをまぜることで、繊細な細工ができるようにはなっているものの、花びらの重なりや、朝露のきらめきまでも表現できるのは、職人技のなせる業です。
その時々の自然の表情や、日本の行事、伝統をモチーフに作られる上生菓子は、一つひとつに小さな物語が込められています。
食べる前に少しだけ眺めてみれば、そこには、夏の夕立や秋の名月、冬の霜花など、言葉にできない風景が広がっているかもしれません。

『今菓子司 銀座凮月堂』の『季節の上生菓子 4種詰め合わせ』
羊羹
羊羹は、しっかりとした食感と口の中に広がる濃厚な甘みで、あんこの魅力をダイレクトに味わうことができます。
こしあんやつぶあんをベースに、寒天と砂糖を合わせて練り上げたものが基本ですが、最近では、さまざまな素材や彩りを取り入れた羊羹も。
伝統を大切にしつつ、自由な発想で現代の感性を表現するスタイルが、今の東京の和菓子シーンをより魅力的にしているのです。

『麻布野菜菓子』の『野菜の水羊羹8個セット』
麻布十番の和菓子店『麻布野菜菓子』では、夏の定番の和菓子である水羊羹に野菜を組み合わせるというユニークなアプローチが魅力的。
水羊羹は、一般的な羊羹に比べてつるんとした食感で、のどごしのよさが特徴です。
そこに組み合わせるのは、真っ赤に熟した果肉が丸ごと入った『トマト』、上品な紫色の『紫芋』、プリンのようになめらかな舌触りの『南瓜(かぼちゃ)』、そしてプチプチとした種の食感が残る『無花果(いちじく)』など、実にさまざま。
どれも野菜本来の味わいを大切にしながら、和菓子としての上品さをしっかりと残しています。
どら焼き
和菓子の中でも、身近で世代を問わず愛されている和菓子といえば、どら焼きです。
ふんわりと焼き上げた生地であんこを挟んだシンプルな和菓子ですが、その素朴さのなかに、和菓子職人の繊細な技と遊び心が詰まっています。

『麻布野菜菓子』の『野菜餡のどら焼き 小豆』
基本となるのは、ほんのり甘くてしっとりとした食感の生地と、丁寧に炊き上げられた小豆から作るあんこ。しかし、餡の種類やトッピングにバリエーションを加えたどら焼きも増え、その可能性はますます広がりを見せています。
浅草にある『舟和』の仲見世3号店で販売されているのは、少し大人な味わいの『芋バターどら焼き』。
なめらかなサツマイモの餡に、クリーム状の塩気のあるバターを添え、しっとり焼き上げた生地で挟んだ逸品です。

『舟和』仲見世3号店の『芋バターどら焼き』
甘さ控えめの餡と、バターのまろやかでコクのある塩味とのコントラストは絶妙な味のバランス。口の中でじんわりと広がるおいしさは、一度食べたら忘れられない味わいです。
どら焼きといえば、つぶあんのイメージが強い人にも、新しい発見となること間違いなし。
団子
丸くてかわいらしい見た目に、ついつい手が伸びてしまう和菓子といえば、団子。
どら焼き同様、コンビニやスーパーでも手軽に手に入る、身近な和菓子です。
1819年創業の老舗茶屋、『羽二重団子(はぶたえだんご)』では、江戸時代から受け継がれる伝統の味が、今も大切に守られています。

『羽二重団子』の団子
使用する米は、山形県産のブランド米『はえぬき』。庄内地方で育てられたこの米は、粒立ちがよく、しっかりとしたうまみがあり、団子作りに最適とされています。
特筆すべきは、その食感。
しっかりとつきあげられた団子は、うるち米とは思えないほどもっちり、そしてやわらかな歯ざわりで、ひと口で驚かされること間違いなし。
口の中でほろりと崩れるようなやさしい弾力は、絹のようななめらかさを感じさせてくれます。

『羽二重団子』の『焼き』
団子には店舗によってさまざまな種類があり、みたらしやきなこなどは定番。しかし、『羽二重団子』の団子の味のラインナップは、2種類のみです。
北海道産の小豆を使った、甘さ控えめでなめらかなこしあんの『餡』と、醤油の香ばしさが際立つ、つけ焼きタイプの『焼き』。
シンプルだからこそ、素材のよさと職人の技術が感じることができます。
あえて2種類のみの団子に絞る点に、老舗としての矜持を感じずにはいられません。
最中(もなか)
最中(もなか)は、もち米から作った香ばしくてパリッとした薄皮に、甘い餡を挟んだ、日本の伝統的な和菓子です。
そのシンプルな構造ゆえに、皮の軽やかな食感と、餡の味わいがダイレクトに伝わるのが最中の魅力。
ひと口で、香ばしさ、甘さ、そして素材の持ち味が一度に広がる、小さな驚きが詰まっています。

『羽二重団子』の『漱石もなか』
薄皮に挟むのは、つぶあんやこしあんが定番。近年ではクリやウメ、抹茶など、季節感あふれる素材を取り入れた餡も登場し、ますます豊かに進化を遂げています。
そんな最中に現代的なアレンジを加えているのが、麻布十番の『麻布野菜菓子』。
季節の野菜を使った餡を香ばしい皮でいただく『野菜最中』を展開しています。

『麻布野菜菓子』の『野菜最中』
『黒胡麻と木の芽』は、濃厚な練り黒胡麻に、山椒(さんしょう)の若葉であるさわやかな木の芽の香りをほんのり添えた、大人の味わい。
『薩摩芋』には香川県産の角切りサツマイモがごろっと入り、ほくほくとした自然な甘みが楽しめます。
さらにユニークなのが、『蓮根(れんこん)』。蜜漬けされたレンコンが刻まれて餡に練り込まれています。
これらの最中は、皮と餡が別々に包装されているのもポイントです。
食べる直前に自分で仕上げることで、パリパリの皮とみずみずしい餡のできたてのおいしさが楽しめます。
おはぎ
おはぎは、もち米とあんこの、たった2つの素材から生まれる、やさしく素朴な味わいが魅力。
その歴史は古く、鎌倉時代にはすでに親しまれていたともいわれています。
地域や季節によっては『ぼたもち』とも呼ばれ、春のボタン、秋のハギという季節の花になぞらえた名前で呼び分けられてきました。
特に、春と秋のお彼岸に食べる風習は、先祖を想う日本人の心を映すようで、食卓に静かなあたたかさを添えてくれます。

『タケノとおはぎ』の(左)『つぶあん』と(右)『こしあん』
おはぎは、もち米の粒感を残して炊き上げ、そこに丁寧に炊いたあんこをまとわせたものが一般的です。
こしあん、つぶあんのほか、きなこや青のりなど、素材の組み合わせで味も表情も変わります。
近年、見た目の美しさという新しい魅力を加えているのが、東京の表参道に店舗を構える『タケノとおはぎ』。
花のように華やかなデザインのおはぎがショーケースを彩り、まるで小さなアートピースのようです。

『タケノとおはぎ』の『表参道店限定おはぎ』
季節の素材をふんだんに取り入れながら、一つひとつ丁寧に手作りされているため、見た目のかわいらしさだけでなく、味わいも本格派。
紫イモや抹茶、黒ごまなどを使ったカラフルなおはぎは、和菓子の新たな可能性を感じさせてくれる存在です。
東京には、老舗の伝統と現代の感性が溶け合った、魅力あふれる和菓子がたくさんあります。
季節や素材に寄り添いながら丁寧に作られた一つひとつの和菓子には、見た目のおいしさだけではない、物語や想いが込められています。
気になる味に出会ったら、ぜひ足を運んで、東京の和菓子めぐりを楽しんでみてください。
そのひと口が、日常を少しだけ豊かにしてくれるはずです。
※メニューの内容や料金、店舗情報などは2025年8月時点のものです。