自然と人を描いた日本画の巨匠、川合玉堂 日本庭園も圧巻の美しさ【玉堂美術館】

自然と人々の営みを見つめ、その姿を日本画に昇華させた画家、川合玉堂(かわい ぎょくどう)。

詩情あふれる彼の作品は、今も多くの人々の心をとらえて離しません。

晩年の川合玉堂が愛し、静かに筆を取り続けたのが、東京都青梅市の御岳(みたけ)。ここには、彼の名を冠した美術館があります。

四季折々の自然に包まれながら、作品世界をじっくりと味わえる場所です。

玉堂美術館の内観

『玉堂美術館』の内観

御岳との出会いと美術館設立の背景

川合玉堂が御岳に移り住んだのは、第二次世界大戦末期のこと。

戦火を避け、当時の住まいであった東京の牛込若宮町(現在の新宿区)から疎開したのがきっかけでした。

自然豊かな御岳の風景をすぐに気に入り、終戦後もこの地に留まり、約10年にわたる晩年を過ごします。

その後、川合玉堂の没後に「彼が愛したこの地に美術館を」との声が遺族や地元住民から上がり、全国からの寄付を受けて、『玉堂美術館』は御岳渓谷のほとりに建設されました。

玉堂美術館の外観

『玉堂美術館』の外観

豊かな自然と駅からのアクセス

美術館のある御岳は、JR中央線快速・青梅線を利用して都心から約1時間30分〜2時間ほど。

多摩川の上流にあたる御岳渓谷や、ハイキングスポットとして人気の御岳山など、東京とは思えないほどの自然が広がるエリアです。

御嶽駅近くの橋から眺める御岳渓谷

『玉堂美術館』の最寄り駅である御嶽駅近くの橋から眺める御岳渓谷

訪れたのは2025年8月の暑い日でしたが、川では勢いよく水しぶきを上げながらラフティングを楽しむ人々の姿があり、夏の御岳の賑わいを感じさせてくれました。

美術館へは、駅から舗装された道を歩いて約8分、または渓谷沿いの近道を通れば徒歩5分ほど。いずれも自然を感じながら歩ける、心地よいアプローチです。

玉堂美術館までのルート

徒歩5分の近道は、緑が茂り気持ちがよい道が続く

川合玉堂の作品世界と日本画の魅力

川合玉堂は、紙や筆などを扱う商家に生まれ、12歳から絵を描き始めました。

初めに学んだのは、写実性と自然な構図を重んじる四条派。23歳になると、力強さと華やかさを特徴とする狩野派に師事し、伝統的な日本画の技術を学びながら、独自の表現を探求していきました。

幼い頃から美術とともに歩んできた川合玉堂が、生涯にわたって描き続けたのが、日本画という表現形式です。

川合玉堂『15歳の頃の写生』

川合玉堂『15歳の頃の写生』 提供:玉堂美術館

日本画は、岩絵具(いわえのぐ)や膠(にかわ)、墨といった自然由来の画材を使い、和紙や絹に描くのがその特徴とされます。

平面的な構図と余白をいかし、絵の中に静けさを生み出すのが日本画の魅力。

岩絵具には鉱物が使われており、淡く繊細な色調が、空気の揺らぎや時間の流れを静かに映し出します。

美術館には、少年期から晩年までに川合玉堂が制作した約300点の作品が所蔵されており、画家としての変遷とともに、彼が大切にしてきた視線をたどることができるのです。

川合玉堂『時雨』

川合玉堂『時雨』 提供:玉堂美術館

愛用の画材と復元された画室

展示室の一角では、川合玉堂が実際に使っていた画材を見ることができます。

わずかな色味の違いを丁寧に使い分けた跡が残されており、川合玉堂の色彩に対するこだわりが垣間見える、貴重な資料です。

川合玉堂が使用した画材

川合玉堂が使用した画材

川合玉堂が使用した画材

川合玉堂が使用した岩絵具

展示室を出た先には、晩年に使用していた画室が忠実に復元されています。

室内に入ることはできませんが、ガラス越しに外からその様子を眺めることが可能です。

川合玉堂が使っていた椅子や道具がそのまま配置されており、まるで今にも筆を走らせる姿が現れそうな、静けさと気配が満ちる空間となっています。

再現された川合玉堂の画室

再現された川合玉堂の画室

自然と調和する枯山水の日本庭園

画室や展示室の先に広がるのは、日本の伝統的な庭園様式である『枯山水』です。

水を一切使わず、石や砂によって山や川を象徴的に表現すこの日本庭園は、静謐な空気を湛え、川合玉堂の絵画と響き合うような空間を生み出しています。

玉堂美術館の日本庭園

『日本庭園ランキング』に選ばれた『玉堂美術館』の日本庭園

庭園の向こうには多摩川のせせらぎが聞こえ、心地よく響くのは、鳥のさえずり。

自然の音に耳を傾けながら庭園を眺める時間は、作品を鑑賞した後の余韻を深めてくれることでしょう。

玉堂美術館の秋の日本庭園

『玉堂美術館』の秋の日本庭園 提供:玉堂美術

秋の企画展『玉堂画で楽しむ画中散策展』

『玉堂美術館』では期間を限定し、テーマを持たせた企画展も開催されています。

2025年11月30日までの、企画展は『玉堂画で楽しむ画中散策展』。川合玉堂の作品には、鑑賞者を絵の中へと引き込むような温かさがあります。

川合玉堂『秋山雨せい』

川合玉堂『秋山雨せい』提供:玉堂美術館

描かれている山里の民家から立ち上る煙を見れば、温かい風呂や食事の気配を感じ、山道を薪を背負って下る人々の姿から伝わるのは、力強い暮らしの営み。

今回の企画展では、そうした絵の中に入り込むような感覚を味わうことができる構成となっています。

玉堂美術館の英語パンフレット

英語版のパンフレット

自然と芸術が交差する御岳でのひととき

川合玉堂の作品には、風景を『見る』ことだけでなく、風景の中で『生きる』ことへのまなざしがあります。

その視点は、御岳という場所そのものにも通じているのでしょう。

自然の中で暮らす人々を描いた川合玉堂の世界に、実際に足を踏み入れる体験ができる場所。それが、『玉堂美術館』なのです。

玉堂美術館のお土産一例

ミュージアムショップではお土産も購入可能

施設情報

施設名 玉堂美術館
ぎょくどうびじゅつかん
Gyokudo Art Museum
住所 東京都青梅市御岳1-75
アクセス 御嶽駅から徒歩8分
  • JR中央快速線・青梅線(JC69)
電話番号 0428-78-8335
開館時間 3~11月/10:00~17:00(入館は閉館の30分前まで)
12~2月/10:00~16:30(入館は閉館の30分前まで)
休館日 月曜日(月曜日が祝日の場合は、翌平日)、年末年始
入館料 大人/600円
中学生・高校生・大学生/500円
小学生/300円
ウェブサイト http://www.gyokudo.jp/
パンフレット 日本語・英語に対応
音声ガイド なし

※施設情報は2025年9月時点のものです。