定番から穴場まで、浮世絵ファンのための美術館ガイド【4選】

歌川圀芳『梅の魁』

日本で生まれ、今や世界中の美術館で高い評価を受ける浮世絵。

葛飾北斎を筆頭に、歌川広重、東洲斎写楽、歌川国芳など、名だたる絵師たちの作品は、海外でも展示されています。

もちろん、浮世絵を楽しめる美術館は日本にも。むしろ、浮世絵発祥の地である日本だからこそ、コアな作品にも出会えます。

この記事では、東京都内にある浮世絵好きなら外せない美術館をセレクト。

誕生から数百年経った現在もなお、人々の心を惹きつけてやまない浮世絵の旅へと誘います。

太田記念美術館(原宿):浮世絵ファン必見!

東京・原宿の閑静なエリアにたたずむ、浮世絵専門の美術館。

『太田記念美術館』は、葛飾北斎、歌川広重、喜多川歌麿といった有名絵師の代表作を中心に、江戸から明治、そして浮世絵の終焉期に至るまで、幅広い時代の作品を網羅しています。

太田記念美術館の館内

大量に刷れる浮世絵版画のみならず貴重な肉筆浮世絵も展示している

所蔵数は約1万5,000点。これだけでも圧巻ですが、真に注目すべきは、まだ知られていない浮世絵や絵師にまで目を向ける視点の深さ。

まだ十分に研究が進んでいない絵師や、歴史の陰に埋もれた作品群にも積極的に光を当てている点こそ、『太田記念美術館』の最大の魅力といえるでしょう。

鰭崎英朋の作品

2025年7月の企画展で取り上げられた鰭崎英朋

例えば、2025年7月の企画展で取り上げられたのは、明治後期から昭和にかけて活躍した鰭崎英朋(ひれざき えいほう)。

現代ではほとんど知られていない逸材にフォーカスし、浮世絵の多様性と奥深さを、新しい視点から見せてくれます。

太田記念美術館の館内

太田記念美術館』の館内

展示はおよそ1か月から数か月ごとに入れ替えられ、毎回異なるテーマで構成される企画展形式。定番の名作だけでなく、個性的で独創性にあふれたテーマが多く、何度訪れても新たな発見があります。

こうした試みが、新たな浮世絵ファンを生み出し続けているといっても、過言ではありません。

施設名 太田記念美術館
おおたきねんびじゅつかん
Ota Memorial Museum of Art
住所 東京都渋谷区神宮前1-10-10
電話番号 03-3403-0880(ハローダイヤル)
開館時間 10:30~17:30(入館は閉館の30分前まで)
休館日 月曜日(祝日の場合は開館。翌平日が休館日)
※展示替え、年末年始ほか、不定休あり
入館料 一般/展覧会毎に異なるため、美術館公式ウェブサイトを要確認
中学生(15歳)以下/無料(中学生以上の学生は学生証を要提示)
※小学生以下は保護者の同伴必須
身体障害者手帳(付添者1名含む)/100円引き(障がい者手帳などを要提示)
※愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳は都度確認
ウェブサイト https://www.ukiyoe-ota-muse.jp/
パンフレット なし
音声ガイド なし

すみだ北斎美術館(両国):葛飾北斎の歴史と画業を知る

世界に誇る浮世絵師の1人が、葛飾北斎。

その名を冠した『すみだ北斎美術館』は、葛飾北斎が生まれ育ち、生涯のほとんどを過ごした東京の墨田区に建てられた、葛飾北斎専門の美術館です。

すみだ北斎美術館に展示されている『冨嶽三十六景 凱風快晴』

『冨嶽三十六景 凱風快晴』

展示の中心はもちろん葛飾北斎。代表作である『富嶽三十六景』シリーズをはじめ、風景画、美人画、読本挿絵、肉筆画まで、ジャンルを問わずその膨大な制作活動を紹介しています。

葛飾北斎ファンはもちろん、日本文化に興味のある外国人観光客にとっても、この美術館は必見です。

浮世絵は光や湿度に弱いため、常設展では原画ではなく、実物大・高精細なレプリカを展示。色彩や線の繊細さを間近に体感できる工夫が施されています。

一方で、特別展や企画展では、貴重な原画や肉筆画が公開されることもあり、運がよければ本物の葛飾北斎作品に出会えるチャンスも。

そして、『すみだ北斎美術館』のもう1つの魅力が、伝統とテクノロジーの融合です。

関東大震災で焼失したとされる、葛飾北斎晩年の幻の大作『須佐之男命厄神退治之図』では、現存するモノクロ写真をもとに、伝統的な復元技法と最新のデジタル技術を組み合わせて再現しており、まさに圧巻のひと言。

葛飾北斎『隅田川両岸景色図巻』

『隅田川両岸景色図巻』

さらに、全長約7メートルに及ぶ『隅田川両岸景色図巻』は、デジタル画像として展示されており、タッチパネルを使って拡大表示しながら、江戸時代と現代の風景を見比べることも可能です。

まるで葛飾北斎と一緒に江戸の街を歩いているかのような没入感が味わえます。

建築は、世界的建築家・妹島和世によるもので、館内外ともにミニマルで美しいデザイン。訪れるだけで、芸術的な刺激に満ちた時間を過ごすことができます。

施設名 すみだ北斎美術館
すみだほくさいびじゅつかん
THE SUMIDA HOKUSAI MUSEUM
住所 東京都墨田区亀沢2-7-2
電話番号 03-6658-8936
開館時間 9:30~17:30(入館は閉館の30分前まで)
休館日 月曜日(祝日・振替休日の場合は開館。翌平日が休館日)
※展示替え、年末年始ほか、不定休あり
入館料 ■『北斎を学ぶ部屋』観覧料
一般/400円(税込み)
※20名以上の団体利用、もしくは65歳以上の場合、300円(税込み)
大学・高校生/300円(税込み)
※20名以上の団体利用の場合、200円(税込み)
中学生以下/無料
身体障害者手帳・愛の手帳・療育手帳・精神障害者保健福祉手帳・被爆者健康手帳をお持ちの方(付添者1名含む)/無料(障がい者手帳などを要提示)


■企画展観覧料
展覧会毎に異なるため、美術館公式ウェブサイトを要確認
ウェブサイト https://hokusai-museum.jp/
パンフレット 日本語・英語・中国語(簡体字・繁体字)・韓国語・フランス語に対応
※美術館の概要パンフレットのみ
音声ガイド なし

たばこと塩の博物館(押上):世にも珍しいユニークなテーマの博物館

「たばこと塩?」と、少し意外に感じるかもしれません。

しかし、このユニークなテーマを掲げる『たばこと塩の博物館』には、約2,000点にもおよぶ貴重な絵画資料が収蔵されており、その中には多くの浮世絵が含まれています。

特筆すべきは、これらの浮世絵が特定の時代や絵師に偏らず、幅広いスタイルやテーマの作品を網羅していること。

江戸時代における浮世絵の多様性を体感できる、貴重なコレクションです。

『たばこと塩の博物館』で浮世絵が取り上げられるのは、美術品としての価値だけではありません。

浮世絵を介して、江戸の人々の暮らしや文化、特にたばこがどのように日常に根付いていたかを伝える記録でもあるのです。

たばこが描かれた浮世絵から江戸の暮らしや文化を見ることができる

所蔵作品の中から紹介するならば、まずは上流階級の女性がたばこ盆の前で琴を楽しむ様子を描いた歌川国芳の『御奥の弾初』。

同じく、歌川国芳作の『相州大山道田村渡の景』は、旅人がキセルを嗜む風景をとらえた浮世絵です。

さらに吉原の花魁がキセルを手にする歌川貞秀の『花競美人揃』など、登場人物や場面を通じて当時のたばこ文化が鮮やかに浮かび上がります。

歌川国芳『相州大山道田村渡の景』

歌川国芳『相州大山道田村渡の景』

展示空間はコンパクトながら、じっくりと鑑賞できる環境にも定評がある『たばこと塩の博物館』。

音声ガイドやパンフレットは日本語のほか、英語、中国語、韓国語、スペイン語にも対応しており、外国人観光客にとっても安心して楽しめる環境が整っています。

浮世絵を通して、江戸の人々の暮らしぶりや嗜好をリアルに感じられる『たばこと塩の博物館』は、美術館巡りとはひと味違った視点での文化的な体験を提供してくれます。

施設名 たばこと塩の博物館
たばことしおのはくぶつかん
TOBACCO & SALT MUSEUM
住所 東京都墨田区横川 1-16-3
電話番号 03-3622-8801
開館時間 10:00~17:00(入館は閉館の30分前まで)
休館日 月曜日(祝日・振替休日の場合は開館。翌平日が休館日)
※館内整備、年末年始ほか、不定休あり
入館料 一般/300円(税込み)
※20名以上の団体利用の場合、200円(税込み)
満65歳以上/100円(税込み)
※20名以上の団体利用の場合、50円(税込み)
小・中・高校生/100円
※20名以上の団体利用の場合、50円(税込み)
障がい者手帳をお持ちの方(付添者1名含む)/無料(障がい者手帳などを要提示)
ウェブサイト https://www.tabashio.jp/index.html
パンフレット 日本語・英語・中国語・韓国語・スペイン語に対応
※美術館の概要パンフレットのみ
音声ガイド 日本語・英語・中国語・韓国語・スペイン語
※ガイド機レンタルの場合、デポジットとして現金で1,000円(税込み)

伊場仙浮世絵ミュージアム(日本橋):見ごたえ十分の私設ミュージアム

東京・日本橋の一角に佇む、隠れ家的な雰囲気の『伊場仙浮世絵ミュージアム』。1590年創業の老舗扇子・うちわ問屋『伊場仙』が運営する私設美術館です。

商人の町である東京の日本橋に根差した、江戸から続く浮世絵と商いの関係を今に伝える特別な場所といえるでしょう。

『伊場仙』は、江戸時代に浮世絵を扇子やうちわの装飾として活用してきた歴史を持ち、やがて浮世絵を独立した作品として制作・販売する『版元』としても活躍しました。いわば、当時の出版プロデューサーのような存在です。

そのため、館内では『伊場仙』が関わった作品を中心に、江戸の出版文化と美意識が融合したコレクションを楽しむことができます。

歌川豊国『うちわ絵 無名』

歌川豊国『うちわ絵 無名』

展示作品には、葛飾北斎、歌川広重、歌川豊国など、名だたる絵師たちの作品がずらり。

中でも注目は、歌川国芳による美人画『梅の魁』です。

まだ肌寒い季節に梅の花を楽しむ3人の女性を描いたもので、通常は1枚ずつ購入されていた3枚続きの浮世絵が、そろった状態で現存しているのは非常に珍しいとされています。

歌川圀芳『梅の魁』

歌川圀芳『梅の魁』

また、館内では実際に使用された版木の展示も。浮世絵の制作工程を支えていた彫師や刷師の繊細な技術を間近に感じられます。

これらの版木は関東大震災や戦災を免れて残された、極めて貴重な資料。

美術品としてだけでなく、文化遺産としての価値も高い展示です。

浮世絵の制作に使う版木

貴重な版木を間近で鑑賞できる

ミュージアムは店舗に併設されており、展示を楽しんだ後は、『伊場仙』の扇子や浮世絵グッズを購入できます。

日本橋の街歩きの途中で立ち寄るにはぴったりの、小規模ながらも内容の濃い美術館です。

施設名 伊場仙浮世絵ミュージアム
いばせん うきよえ みゅーじあむ
Ibasen Ukiyoe Museum
住所 東京都中央区日本橋小舟町4-1
電話番号 03-3664-9261
開館時間 10:00~18:00
休館日 日・祝日
入館料 無料
ウェブサイト https://www.ibasen.co.jp/pages/gallery
パンフレット 日本語・英語に対応
※美術館の概要パンフレットのみ
音声ガイド なし

葛飾北斎のダイナミックな構図、歌川広重の静謐な風景、歌川国芳のユーモアと風刺。

江戸から明治へ、そして現代に至るまで、浮世絵は日本の美意識と人々の暮らしを描き出し、世界中の人々を魅了してきました。

今回紹介した5つの施設は、それぞれ異なる視点と切り口で、この浮世絵の奥深い世界を見せてくれます。

正統派の名作に触れたいなら『太田記念美術館』、葛飾北斎の生涯をたどるなら『すみだ北斎美術館』へ。

日常生活に息づいた浮世絵を知るなら、『たばこと塩の博物館』や『伊場仙浮世絵ミュージアム』も見逃せません。

知れば知るほど、浮世絵というジャンルがいかに多面的で、豊かな物語を秘めているかが分かってくるはず。ぜひ浮世絵の旅へ出かけてみてください。

※メニューの内容や料金、店舗情報などは2025年9月時点のものです。