サクッとした衣に、じゅわっと広がる素材のうまみ。天ぷらは、和食の中でもひと際、心と舌を満たしてくれる存在です。
基本的に東京湾で獲れる新鮮な魚介類、季節の旬の野菜。これらを生かした『江戸前天ぷら』は、まさに東京の季節を映す1品です。
18世紀から続く、江戸前天ぷらの伝統を、今も大切に守り続けている店があります。

東京・上野。伝統をつなぐ名店『天寿々』
場所は上野駅から歩いてすぐ。老舗が並ぶエリアに店を構える『天寿々(てんすず)』は、約100年の歴史を持つ江戸前天ぷらの名店です。
現在、店の暖簾を守るのは、三代目の鈴木康夫さん。料理人として半世紀以上のキャリアを持ち、その経験を生かしながら、今もなお変わらぬ味と向き合っています。

『天寿々』三代目店主の鈴木康夫さん
定食なのに、まるでコースのような贅沢
看板メニューは『天ぷら定食 寿』。日本産の車海老2本に、魚3品、野菜3品、小エビのかき揚げ、締めには天丼か天茶漬けが選べる、満足度の高いセットです。
『定食』と聞くと、ご飯と味噌汁、そこに小鉢がセットになった状態で提供する形が一般的。しかし、『天寿々』では少し違います。

『天寿々』のカウンター席
16歳以上の人のみが座れるカウンター席なら、まるで高級天ぷら店のコースのように、揚げたてを1品ずつ提供。目の前で繰り広げられる職人技を眺めつつ、旬の味を堪能できます。
食材は、豊洲市場で創業時から付き合いのある卸業者が厳選したもののみ。新鮮さと質の高さは、いうまでもありません。
鈴木さんの、素材の魅力を丁寧に引き出す、真摯な姿勢が垣間見えます。

ごま油の香りに、胃袋がざわつく
衣は、小麦粉と卵黄を合わせたもの。『天寿々』では練りすぎず、空気を含ませるように仕上げます。これにより、軽くパリッとした口あたりが生まれます。
使用するごま油は、400年以上の歴史をもつ伝統製法で作られた最高級品。揚げ油から立ちのぼる芳醇な香りに、食欲がそそられます。

天ぷらを引き上げるタイミングの決め手は、ずばり音。
素材が揚げ油の中で奏でる音を耳で感じながら、最適な火入れで仕上げる、職人ならではの感覚が光ります。

天つゆか、塩か。味わい方はあなた次第
席に用意されているのは、自家製の天つゆ、大根おろし、塩。

(左上)天つゆ、(左下)塩、(右上)大根おろし
まずはそのまま、次に塩、そしてつゆに大根おろしを溶かして召し上がれ。シンプルながら、味のバリエーションが豊かです。
天つゆは、店で丁寧に削ったカツオ節を使い、醤油やみりん、砂糖を合わせた自家製。
甘すぎず、それでいて後味はすっきりとしており、素材のうまみを引き立てます。
車海老、キス、イカ、旬が香る1皿たち

車海老の天ぷら
まず提供されるのは、車海老2本。プリッと弾ける食感と、口の中でやさしく広がる瑞々しい甘みが印象的です。
「これぞ天ぷら」と唸りたくなるおいしさを堪能した後、続いて登場するのは、白身魚の定番『きす』。

キスの天ぷら
薄衣のサクサク感と、ふっくらとした身の対比が心地よく、淡泊ながらもうまみがじんわり広がります。
さらに、高品質な甲イカは刺身でも食べられるほどの鮮度。天ぷらにすることで、ねっとりとした甘さが際立ちます。
やわらかく揚げられたアナゴも、香ばしさと上品な脂のバランスが絶妙です。

小ナスの天ぷら
野菜もまた主役級。小ナスはジューシーに、伏見とうがらしは、香り高く仕上げられています。
インゲンや加賀レンコンといったブランド野菜も登場し、それぞれが旬を映す存在です。

加賀レンコンの天ぷら
魚介の3種はキス、アナゴ、イカと固定。一方で、野菜は季節ごとにラインナップが変わります。
季節ごとに異なる味と出会えるのも、『天寿々』ならではの楽しみです。
ラストを飾る、香るかき揚げとごはん

小エビのかき揚げとご飯のセット
食事の最後には、小エビのかき揚げとご飯のセットが登場します。
ほかの食材と香りが混ざらないよう、かき揚げだけは専用の油で揚げるというこだわりぶり。タレも天つゆとは異なる、専用の自家製ダレが使われます。
ここで選べるのが、『天丼』か『天茶漬け』。
タレをかけてごはんにのせれば、香ばしく豊かな天丼に。もしくは、ほうじ茶をかけてさっぱりと締める天茶漬けもおすすめです。
塩で漬けた自家製の漬物と、しっかり出汁のきいた味噌汁もセットで、最後まで満ち足りた気持ちにさせてくれます。
駅チカの老舗で、江戸前の粋に触れる

『天寿々』の外観
『天寿々』があるのは、ターミナル駅である上野駅のすぐそば。アクセスのよさも魅力です。
すぐ近くには『アメ横』の賑わいがあり、『東京国立博物館』『上野の森美術館』『上野動物園』など、東京を代表する文化施設や観光名所が点在しています。
街の喧騒からふと抜け出して、職人の揚げる江戸前天ぷらを味わってみてはいかがでしょうか。
揚げたての香りに包まれる時間が、旅の記憶をより豊かにしてくれるはずです。
店舗情報
店名 | 天寿々 てんすず Tensuzu |
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住所 | 東京台東区上野2-6-7
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アクセス |
京成上野駅正面口から徒歩4分
上野駅(UEN)不忍口から徒歩6分
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電話番号 | 03-3831-6360 |
予約 | 可 ※電話から予約可能 |
支払い方法 |
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サービス料・席料 | お通し代330円(税込み) ※ディナータイムのみ |
営業時間 | 11:00〜14:00(LO)、16:30〜21:00(LO20:30) |
定休日 | 水曜日、隔週木曜日 |
席数 | 29席 ※カウンター9席、テーブル12席、座敷8席 |
喫煙・禁煙 | 全席禁煙 |
ウェブサイト | https://g388000.gorp.jp/ |
その他 |
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※メニューの内容や料金、店舗情報などは2025年9月時点のものです。